占星学 ユキコ・ハーウッド[Yukiko Harwood] 星の架け橋

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第12話 英語雑学:双子座の水星

 以前、「第3話 ブルーベル鐡道」でもお話しました、水星、ギリシア神話のヘルメス(ローマ神話ではマーキュリー)は双子座の支配星。つまり黄道12星座の中の、双子座の空間を治める神様。よって双子座の特徴や人生テーマは、ヘルメスのキャラクターに大きく色づけられます。

ギリシア神話のヘルメスの像。

ギリシア神話のヘルメスの像。

 ギリシア神話のヘルメスは赤ん坊の時から竪琴作りの名人。その上、自分の仕業とばれないように小細工して、アポロの牛40頭を盗むという芸当をやってのけます。
これを見抜いたアポロ、さっそくヘルメスの所にやって来ますが「赤ん坊のボクに、そんな難しいことできるわけないじゃん。」とウソぶいて、ますますアポロを怒らせます。
それでも最後には竪琴と交換してもらって、まんまと牛40頭せしめるというお話。
要するに、頭の回転早く小手先の知恵が働いてチャッカリしてるわけです。憎めません。

 そしてヘルメスは空を飛ぶことのできる黄金の翼のついたタラリアというサンダルを履いて、丸い翼のついたぺタソスという旅行帽をかぶっている。

 どこにでも軽やかに飛んで行ってそこで起こっていることを見る、聞く。雑学でも何でもよい。情報や知識のカケラを集めてくることが、双子座の人にとってはとりわけ大きなエネルギー源になるわけです。

 実際イギリスに数年住んでいますと、教科書には決して出てこなかった奇妙な言葉に遭遇して好奇心のつきない日々。今回は「英語雑学」と称して、そんなスラングをわずかばかりご紹介しましょう。


■POSH (ポッシュ)
 クリスおじさん(夫)の話です。これは “Port Outward Starboard Homeward”(ポート・アウトワード・スターボード・ホームワード)の頭文字を取ったもので、19世紀、イギリスからインドに向けての航海時に生まれた俗語である、と。

ロンドン市内、ポッシュ(高級)なデパートのウインドーデイスプレイ。

ロンドン市内、ポッシュ(高級)な
デパートのウインドーデイスプレイ。

同じくロンドン市内のデパート。

同じくロンドン市内のデパート。

 Port は進行方向向かって船の左半分。Starboard は右半分のことをいうそうです。
イギリスを出発してアフリカ大陸に沿って南下します時は、船の右半分は西風ビュンビュン吹き付けて寒い辛い。だから右半分の席は安く、Port左半分は高い。帰りの航路は逆にStarboard 右側の席が高くなるわけです。
 貿易相や政府高官、限られた人だけがインドに行った19世紀。「行きは左、帰りは右。」この切符が買えるのは、その中でも特別なお金持ちだけだったんですね。

 といったことからポッシュは「お上品な高級な」という意味合いで使われます。ポッシュなスーパー、高級スーパーですね。それからポッシュなレストランといった具合。
  人に対しても言います。”She speaks posh English.” 「彼女はポッシュな英語を話す。」は、もっぱらクイーンズ・イングリッシュをさしていうようです。エリザベス女王が話すような英語。但しこのポッシュ・イングリッシュを話すのは、それなりの血筋、家系に限られるようです。

バンドも入り盛り上げる、華やかなバースデーパーテイーの一幕。

バンドも入り盛り上げる、華やかな
バースデーパーテイーの一幕。

 例えば下町の配管工の息子、どんなにハンサムで一世を風靡する大スター億万長者になっても、あるいは学業をおさめ立派な博士になっても、ポッシュ・イングリッシュを話すとこれおかしいです。周りは「素晴らしい。」とは思わず「あの人、なに勘違いしてるの。」と反応するようです。

 日本人の私には知る由もありませんが、階級社会が崩れタブーになった今でも、階級制度に対するうらはらな思いが集合無意識の押入れに眠っていて、時として首をもたげるように感じます。

小川のそばにひっそりとたたずむ16世紀の美しい家。

小川のそばにひっそりとたたずむ16世紀の美しい家。
これはポッシュと言わず、ヒストリック(歴史ある)と言うそうです。

■DODGY(ドジー)
 先ほどのポッシュと対照的な言葉です。「うらぶれた、すさんだ、品性の悪い、ヤバイ
 いろんなニュアンスを含みます。
 例えば “Oh, I live in a dodgy street.” と言えば「もう私なんてガラの悪い汚い通りに住んでるの。」という意味になります。 それから店員がレジのお金をくすねたりしたら、”That’s dodgy.” 「まずいよ、それ。」と言ったりします。

庶民の憩いの場、パブ。これは天井です。

庶民の憩いの場、パブ。これは天井です。

 誘拐、虐待となりますとこれはもう陰惨な犯罪ですから、ドジーとは言いません。あくまでサギ横領まがいのヤバイことに使うようです。汚職の政治家、これはうんとドジーですね。

■CHEAPSKATE(チープスケート)
 この言葉の出所がどこにあるのかはわかりませんが、ある種の「ケチ」。ケチにもいろいろありますので一言では説明がつきません。
 どういう人をチープスケートというかと言いますと、例えばチャリテイー・ショップ(町内の人が持ち寄った不用品を100円200円で売る、慈善団体の店。売上金は全額、各種寄付金に回ります。)の前で朝の8時半から行列作って待つ人の群れ。9時開店同時に入れば、掘り出し物のお宝をタダ同然でせしめることができるのです。
 それから友達の誕生パーテイー。皆がシャンペンや花束持ってかけつけるのに、一人だけ板チョコ1枚で平気で来るような人。まだあります。スーパーのレジで長蛇の行列。レジのお兄さんが困った顔してるのに、「ハイ、これ卵10円割引券。こっちは牛乳20円割引券。パン15円割引券。」と割引クーポン券の束を持ってエンエン清算してるオバサン。

ブライトンの市役所。威風堂々とした19世紀の建築物。

ブライトンの市役所。威風堂々とした19世紀の建築物。

 但し。本当にそうしないと生活していけない人のことはチープスケートとは言いません。イギリスの不況は厳しい。失業手当とて、ふんだんに出るわけではない。1週間に100ポンド程度(2013年6月現在のレートで約15000円ですが、レートは日々変化します。イギリス国内価値でいうと100ポンドは1万円と考えてください。)の手当てで、週家賃が70ポンド。電話光熱費が20ポンド。残り10ポンドで1週間食べる、となるとスーパーの見切り品と割引券がライフ・ラインになります。こういう人をチープ・スケートと言うのは、お門違いでものすごく失礼です。

 クリスおじさんに聞きますと「それなりに家賃も払えるのに、さもしくバーゲンあさって、人に対しては極力、安物ですまそうとする人。」日頃から財布の紐がかたいクリスおじさんですが、言うまでもなくチープスケートは大嫌いです。話が別です。
 そんなわけで、穴のあいたシャツを繕って繕ってツギハギだらけで着ている人もチープスケートとは言いません。「ものを大切にする。」と美徳になります。クリスおじさんはこのカテゴリーに入ります。


 占星学の本で双子座のところを見ると「語学学習が得意。」なんて書いてあります。語学は万人にとって大事なものですが、中でも双子座の人にとっては占める位置が大きい。何故か。

 たとえスラングといえど、言葉は民族の気質、歴史、世相の上で生まれ育っていく。そしてその民族が共有する価値観がこめられる。面白いもんですね。一つの言語しか知らないうちは比べる対象がありませんから、一つの世界観しか知らず、それがユニバーサルなものだと錯覚しがち。ところが別の言語と接することで異なる世界観がおぼろに見えてくるわけです。この異なる価値観を照らし合わせて吟味することで、初めて人は借り物お仕着せでないオリジナルな人生観を育てることができます。

イギリスの春、紫のじゅうたんを敷きつめたようなブルーベルの花。

イギリスの春、紫のじゅうたんを
敷きつめたようなブルーベルの花。

 ヘルメスは翼のついたサンダルで飛んで行って、どこへでも首を突っ込んで聞こう、知ろうとする。ヘルメスが聞きかじる言語や知識の破片はそのままだと、浅く広いただのモノ知り、口先三寸のチャッカリ者で終わってしまいます。
 散らばった言葉や知識の背後に潜むものごとの本質を理解してつかもうとすること。そのプロセスで独自の観点を養っていくことが、双子座の人にとって究極の人生テーマ。

 双子座に限らず、ヘルメスが枯れると人生も枯れる。体は老いてもヘルメスが、つまり私達のマインドが、軽やかに飛び続ける限り、人生は意味を持ち精彩を放つ。
 このヘルメスですが、年をとらない永遠の少年であると同時に、死者の魂を冥界のハデスの審判に差し向ける水先案内人でもあります。死後の審判とは、世間の道徳基準によるものではなく、自分なりに一生の意義と価値を問うこと。独自の観点を育てない限り、この人生の意味づけは難しくなります。

満開のつつじの花。

満開のつつじの花。

 その他いろいろなスラングについては、また折にふれてお話しましょうね。
 またお会いしましょう。