第15話 アーサーおじさんと戦火のイギリス:牡牛座の金星
このお話にほぼ毎回登場しますクリスおじさん(夫)が生れたのは1941年。第二次世界大戦中です。長男であるクリスおじさんが生れて2年後、空軍に従事していたお父さんはフランス上空でドイツ機に追撃され帰らぬ人となります。
そういうわけでか、どうかは知りませんが、クリスおじさんはドイツが大嫌い。かと言って連合軍であったフランスに対しても決して好感情はなく、テレビが故障しても紅茶がまずくても、それを引き金に不機嫌が生じると、話が紆余曲折してへ理屈とも言える理論がとうとうと展開され、最後には必ず「ドイツとフランスが悪い。」というところで落ち着きます。
話を元に戻しましょう。戦火がますますひどくなった1944年のロンドン。3才のクリスは疎開先のヨークシャー(英北部)で、頭から熱湯をかぶるという大やけどを負い病院に運ばれます。当時ロンドンで看護婦をしていたお母さん。知らせを受けて病院にかけつけますが、自身ロンドンで多くのケガ人病人を抱え、3才の息子に付き添うこともままならず。
トンボ帰りでロンドンに戻るべく、ヨークの片田舎のバス停で途方に暮れていると、見知らぬ男の人が話しかけてきた。この人がアーサーおじさんです。「奥さん、見かけない顔だがどちらの方?」お母さんが事情を説明すると「それはお困りだろう。なんだったら坊ちゃん、戦争が終わるまで家でずっと預かりましょうか。」この申し出にわらにもすがる思いで「お願いします!」と答えたお母さん。
そういういきさつで、3才のクリスはヨークシャーの病院からアーサーおじさんの家に引き取られることになります。当時50代のアーサーおじさんと妻のフローレンスおばさんは子供のない夫婦。突然の男の子の来訪を天から降ってわいた宝のように喜んで、特にフローレンスおばさんは得意満面。3才のクリスを動物園のパンダ顔見世興行のように近所中を連れ歩いたといいます。「キャー可愛い!どこの子?」「クリストファーっていうのよ。ロンドンから来たの。」「すごーい!ロンドンから!」
当時ヨークシャーからロンドンは宇宙の彼方とも言える距離感で、一般人が気軽に旅行できるような所ではなかったそうですね。3才のクリスは近所中の人気者でVIP待遇を受けたわけです。
当時アーサーおじさんはヨークの炭鉱で働いていて、今でこそ炭鉱は斜陽産業ですが、物資の乏しい戦時中、石炭がただで好きなだけもらい放題のヨーク炭鉱に勤めるアーサーおじさんは言わば特権階級。3才のクリスはアーサーおじさんと一緒に手押し車を引いて石炭をもらいに行くのを何より楽しみにしていたと言います。
そしてこの石炭を暖炉にくべると部屋中ホカホカと暖かく、アーサーおじさんの膝の上で本を読んでもらう日々。またお料理上手なフローレンスおばさんは暖炉でパン、スコーンやテイー・ケーキ(干しブドウの入った丸く薄べったいパン)を焼いてくれて毎日午後には、おばさんと二人で楽しいお茶の時間をすごしたと言います。
また毎週金曜日には「クリストファー、今日は金曜日よ。フィッシュ・アンド・チップスを買いに行きましょう。」と、おばさんと手をつないでフィッシュ・アンド・チップスを買いに行ったそうです。
余談になりますがフィッシュ・アンド・チップス、キリスト教のカトリックではもっぱら金曜日にいうのが慣例のようです。イエス・キリストが亡くなったのが金曜日(Good Friday)ということから、キリストを忍び肉食を控えることが一つ。そしてキリストが信奉者に魚を配ったことから魚が聖なるものシンボルと称えられていることがもう一つの理由。
ですからトンチンカンな私が日曜日にフィッシュ・アンド・チップスと言い出すと、クリスおじさんは当惑します。それもクリスおじさんに言わせると、然るべき理由があるのです。たいていの店では金曜日の大盛況を終えて、くたびれた店主は日曜日に休みを取る。店主ばかりでなく油もくたびれて、日曜日のフィッシュ・アンド・チップス・ショップでは慣れないバイトの店員がベタベタと古油で揚げているのが常。観光客で年中ごった返しているような町中の店はいざ知らず。クリスおじさんは地元のフィッシュ・アンド・チップス・ショップには日曜月曜は絶対に行きません。
話が定まらない台風の目のように迷走しますが、このように空爆を免れたヨークシャーでアーサーおじさんとフローレンスおばさんに守られて1年間を過ごしたクリス。戦争が終わった時は皆でガッカリしたそうです。お母さんが迎えに来て二人で家に戻ると、ロンドンは焼け野原。食料も不足して父親も暖房もなく、お母さんは看護婦で忙しい毎日。
「この時から悲惨な人生が始まった。」と、クリスおじさんは言います。
第13話「リッチモンド:牡牛座の金星」でもお話したように牡牛座の支配星は金星、美の女神アフロデイーテです。今回はちょっと異なる角度からこの牡牛座を見てみましょう。
黄道12宮(12星座)は春分点を起点に、黄道をケーキカットのように12の空間に等分します。牡羊座から始まり魚座で終わるのですが、どれが先でも後でもよいわけではなく、ちゃんと人生の旅のプロセスに応じて星座毎にテーマが設けられています。
12宮、始まりの星座は牡羊座。支配星は火星です。地水火風の4区分で言うと、直観を司る火のエレメントに属します。私達が産道をくぐり抜けて「オギャー」とこの世に生れ出る、サバイバルの旅の第一歩。「お乳を飲もう。」といった本能的な意欲がないと生き延びることができません。
続く牡牛座は2番目の星座。五感の働きを表す地の星座です。つまり大地に根を張るアフロデイーテということになります。「腹が減っては戦ができぬ。」と言いますが、サバイバルの強い意志だけでは生存できないのがこの世の定め。雨風しのぐ家、暖房、飲み物食べ物、みんないるわけです。
そしてさらに人間の日々の営みを支える「資源」がないと家も暖房も手に入らないわけです。肥沃の大地、石油、石炭、これら全て「安全で安楽な暮らし」に欠かせない資源。
占星学の本で牡牛座のところを見ますと、必ず「所有」というキーワードが出てくる。
12星座が表す人生の旅のプロセスを考えると、この「所有」の意味がよくわかりますね。石油石炭、木材、農産物がないと私達は、たちどころに飢え死に凍え死にするわけです。で、この資源の発掘と所有権を巡って、ありとあらゆる類の戦争が起こります。集合的に言うと、ですね。
個人的にも「資源」は大きなテーマになります。一人一人の人間の生まれ持った「資質才能ですね。で「玉も磨かねば光らぬ。」と言いますが、磨く前にこの肝心の才能のありかを見つけ出すことが、牡牛座にとってはとりわけ大きな課題。頑張って頑張ってプラスチックを磨いても光らないわけです。
才能発見と言うと、えてして世のトレンドに踊らされがちですが、造船業、スチュワーデス、金融業、IT産業、こういった花形職業は世につれ人につれ短期間でうつろいゆきます。そして「才能資質」とは何か超人的な特別なことでなくてもいい。例えば黒人として生まれた。白人よりも黄色人種よりも速く俊敏に動ける。これも一つの資質才能です。
まずは損得にこだわらず、自分の好きなこと、得意なことを見つけるのが個人の「資源発掘」の第一歩。そしてその資質才能がひいては暖房食事という日々の糧を産み出す。
つまり現代社会では収入を得る原動力となる。
但し、悲しいかな。私達はやっぱり世相の動向と共にいきているわけで、自分の本当に得意なことが収入につながらない場合もあります。多々あります。そういう時はサッサとあきらめたり、「趣味」の一言でかたづけたりすべきではないと私は思いますね。最小限の収入の手段を何かで確保しつつ折り合いをつけながら、大切に自分の「資質」を磨きつづけるべきだと考えます。何故なら現金収入にはならなくても「豊かな心の糧」になるからです。
12宮の2番目の星座、この世の旅の第二段階に相当する牡牛座にとっては、3才のクリスが戦火を免れヨークシャーでアーサーおじさんと過ごした日々に象徴されるように「この世は安全で豊か。自分は守られ愛されている。」という人生に対する無条件の信頼が大きなテーマになります。
しかし残念ながら、人生の初期にこの信頼が得られる人は案外少ない。世相にも家庭環境にもよりますが「この世は危険に満ちて、自分は無条件で受け入れられていない。」という人生観が幼心にプリントされてしまった場合、ことさら牡牛座にとっては「豊かな心の糧」が充足感を生むカギになります。この「心の糧」が満ち足りていると、車を持ってる、恋人もいる、持ち家もある、通帳残高もこれだけあると、安全な暮らしを求めてエンエンと「所有」を訴えなくてもすむわけです。「金持ちケンカせず。」と言いますが、サイキの押入れに十分な蓄えがあると、心に余裕ができてそれを資源に人生の荒波を乗り切ることができる、と信じたいものです。
クリスおじさんは「今、思い返してもヨークシャーでアーサーおじさんと暮らした1年間が人生で最も幸せな時期だった。」としきりに当時をなつかしみます。そして今でも、アーサーおじさんの家に石炭がたくさんある夢を見るそうです。
またお会いしましょうね。