第8話 ロンドン・オリンピック開会式:射手座の木星
今回はロンドン・オリンピックの開会式と、射手座の支配星である木星についてお話ししましょう。木星はギリシア神話の“全知全能の神・ゼウス”。(ローマ神話ではジュピター)ゼウスの父親クロノスは我が子に実権を奪われることを恐れ、生まれた子供を次々飲み込んでいきます。嘆き悲しんだ母親のレアは、末息子のゼウスが生れた時、赤ん坊の代わりに布でくるんだ石を、夫クロノスに差し出します。それとは知らず石を飲み込んだクロノス。一方、ゼウスはクレタ島に預けられ無事にすくすく育ちます。
そして大きくなってから、父クロノスに飲み込んだ子供たちを吐き出させ、自分の兄弟を助け出します。ちなみにハデス(冥界の神・蠍座の支配星)、ポセイドン(海の神・魚座の支配星)は、ゼウスに救われた兄弟。で、力を合わせて父打倒。クロノスをはじめとするテイターン神族を滅ぼします。その後、ゼウス、ハデス、ポセイドンは宇宙の支配権を巡ってクジ引き。それぞれにゼウスは天空、ハデスは冥界、ポセイドンは海を治めることで一件落着。中でもゼウスはその抜きん出た功績ゆえに最高神として崇められ、オリンポスの山の神殿に君臨したというギリシア神話のエピソード。
こういったことからゼウスは「弱者の守護神、正義と慈悲の神」として称えられるようです。半面、ゼウスは妻の目を盗んでは不貞を働き、あちこちに子供を作る好色な神でもあるのですが、その話はいつかまた今度。また占星学では射手座の支配星で、「発展と繁栄の星」として歓迎されています。平たく言うと「吉星」として解釈されるのですが、この「吉星」の定義については後でお話しましょう。
一気に木星のことを書いてしまいましたが、ロンドン・オリンピックの開会式を見ると、どうしてもそうそうたるジュピターの姿が浮かぶのです。圧巻でしたね。
まず初めにグラストンベリー・トールをイメージした緑の丘がテレビ画面に写し出されます。グラストンベリーは英西南部に位置するサマーセットにある様々な伝説が織りなす聖地。
グラストンベリー・トール(TOR)という名の小高い丘の上にある小さな塔、聖マイケル教会は、この世と異次元の境界で聖域への扉が開くと言われる霊的な空間。そしてイエス・キリストが最後の晩餐で使った聖杯が投げ込まれたという言い伝えのある“聖杯の泉”。さらに修道院の焼け跡、ブラストンベリー・アビーには“アーサー王と円卓の騎士”で有名なアーサー王のお墓があります。アーサー王がはたして実在の人物かどうかは説が分かれるところですが、イングランドが困難に陥った時には、アーサー王の助言者であった魔法使いマーリンが再来して人々を窮地から救う、という民間信仰が脈々と息づいているようです。
このグラストンベリー・トールが開会式のトップに現れたのは、中世から現代に至るまで精霊や草花と共存して生きるイギリスの姿をシンボリックに物語る、と私の目には映りました。
さらに続く産業革命をテーマにしたパフォーマンス。クリスおじさん(夫)の解説によりますと、18世紀末から19世紀初めにかけての産業革命による公害汚染。この集合的な記憶が国民の無意識層に焼き付いていて、「もう二度と自然を汚すまい。」という思いが高層ビルや高速道路建設反対に直結して、今日の社会を築いているのだ、と。
実際、クリスおじさんは地理歴史から天文学に至るまで、歩く電子辞書のような人です。「マア、もっと活発に占星学の講演会活動なさればいいのに。」と言いますと、「イヤだ。」と申します。「来月来年と他人の都合に拘束されるのは、まっぴらだ。」と、ひじ掛け椅子でクロスワードパズルに余念がありません。
そう言えばロンドンを旅行された方、「ヤレ、地下鉄が動かなかった。」「風呂のお湯が出なかった。」といった話、よく耳にしますでしょう。事実、私も渡英した当時は面食らいましたね。ところがそこで「テクノロジーが遅れている。」と考えるのは早トチリ。
よくよく聞いてみると、明治維新の頃(1860年代)にロンドン地下鉄はすでに開通していたわけで、それを取り壊さず、根気よく週末ごとに改修工事を繰り返して使っている。建物にしても、テユーダー朝(16世紀のもの)からビクトリア朝(19世紀のもの)まで、水回りや床の修理をしながら暮らしているわけです。ちなみに古いほど家の値段は上がるそうです。歴史的価値と家のキャラクターがあるということで。
田舎の曲がりくねった車道も電灯はなし。夜こうこうと明かりをつけますと野生の動物が度肝を抜かして生態系が乱れるので、人間の方が気をつけて走ればよい、と考えるようです。
話はオリンピック開会式に戻ります。産業革命に続き”メリー・ポピンズ“など、おとぎ話のミュージカルを題材にしたパフォーマンス。イギリスという国は数多くの寓話を生み出していますね。最新版”ハリー・ポッター“から、さかのぼること"クマのプーさん”、“ナルニア”、“不思議の国のアリス”、“ピーターパン”。みんなイギリス生まれのお話です。
確かにこの国の自然、丘陵地帯が織りなす風景は、人を語り部、ストーリー・テラーにさせてくれる不思議な魅力があります。木や動物と対話して、そこからインスピレーションを引き出すことが自然にできるのですね。
そして開会式はさらに多民族都市として発展しようとする現在のロンドンの姿を映し出します。事実、今のロンドンは世界中の人が混在する人種のるつぼ。クリスおじさんは、これをして「現代版ノアの箱舟だ。」と言います。ありとあらゆる人種、動物植物の品種がイギリスという小さな島に集結しているというわけです。
もはやイギリスは19世紀のように貴族が優雅にお茶会を開く国ではない。大英帝国もとっくに終わりを告げたし、深刻な不況で多くの失業者を抱える現実。にもかかわらず総じて活発な印象を受けるのは何故か?
先ほどの射手座の木星の話に戻りましょう。ゼウスが弱者の守護神、慈悲の神であることに注目。つまり弱者である移民難民を排除せず、おしくらまんじゅうではありますが、受け入れ続け、その実験的都市生活が生み出す不協和音協奏曲の活気が、街角にもオリンピックの開会式にもよく表れているように思うのです。
「木星は希望の星と言うけど、希望って一体どういう意味? 逆境の中で持とうとする光だからこそ希望と言うの。何事もうまくいってる時に光が見えるのは当然でしょう。そんなものは希望と言わないの。」と授業中に話してくれたリズ・グリーン(ユング派心理学者で、私が通っていた占星学専門校CPAの主宰者)の言葉がなつかしく思えます。
なるほど、これが「吉星」と言われるゆえんだと私なりにうなずく次第です。現実を見渡すと、何一つよい事はない。それでも未来に一筋の光を託す思いが原動力となって、物事は意外な進展を見せながらも視界が開けていくものです。
さらに射手座は「直観の働き」を司る火の星座。天啓を受けるが如くに閃きに従って行動、常に未来の可能性を見すえるのが射手座的な生き方。放たれた矢は霊的な理想に向かって天高く飛んでいきます。「射手座の人は幸運で発展的。」と俗に言いますが、射手座がいうところの「幸運発展」とは学歴や貯蓄高、就職率や国民総生産量では量れないものがあるのです。むしろ「魂の鼓動と、人生の霊的な意義を探求する旅」と言った方がいいでしょう。これがないと無気力感に押し流されて人生、もぬけのからになってしまします。
こういった意味でロンドン・オリンピック開会式は、生きることの躍動感と、未来への光を垣間見せてくれるものでしたね。同じ瞬間に世界中で感動を共有できたこと。この個人を超えたグローバルな歓びも射手座の木星的な感覚と言えるでしょう。
またお会いしましょうね。